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ANIMAREAL代表 市さん

 

マンガやアニメと〝リアル〟を組み合わせ、いままでにない新しいアートを生み出している「ANIMAREAL」プロジェクト。今回彼らが取り組んだ作品は、曽田正人が初めて挑むファンタジー『テンプリズム』だった。
前編では、「ANIMAREAL」とは何か、そして「テンプリズム×ANIMAREAL」の製作にあたった感想やこだわりについて、代表の市さんに語ってもらった。

 

 

■ きっかけは「愛なき実写化」への憤り

 

―― 最初に、「ANIMAREAL」というプロジェクトについて、簡単に説明していただけますか。

 

市 ひと言でいうと、マンガやアニメと〝リアル〟を融合させた、まったくあたらしいアートプロジェクト。それが「ANIMAREAL」です。

 

―― いわゆる「実写化」とは違うわけですね?

 

市 そうですね。むしろ、安易な実写化に対する憤りみたいなところからスタートしたプロジェクトなので。

 

―― 憤りとは、どういうことでしょうか。

 

市 数年前に、僕が子どものころから大好きだったマンガが、ハリウッドで実写化されたんです。もちろん、映画化の一報を聞いたときには興奮したし、どんな作品になるんだろうと楽しみにしていました。ところが、実際に映像を見てみると「なんだこれ!?」という、かなり残念なものだったんですね。

 

 

―― ああ…。

 

市 もう、国が違うとか、予算がないとか、マンガと映画の違いだとか、そんなの以前の問題で、原作への愛やリスペクトがまったく感じられないものでした。

ただ素材として原作を使っているだけというか。そういう安易なクリエイティブが、原作ファンとしても許せなかったし、ひとりのクリエイターとしても許せなかったんです。それで同じ志を持った仲間たちに声をかけて、自分たちが納得できる作品をつくろうと立ち上がったのが、いちばん最初のきっかけになります。

とはいえ、僕らには1本の映画をつくる能力も予算もないので、とにかく一枚絵をつくろう、と。原作ファンとしても納得できて、クリエイターとしても納得できる一枚絵をつくってしまえば、なにか風向きが変わるんじゃないかと思って。

―― 具体的に、「ANIMAREAL」のアプローチは、通常の実写化とどこが違うのでしょうか。

 

市 マンガ家さんの仕事に対する理解だと思います。マンガって、デフォルメの文化なんですよね。現実にあるものを、いかにデフォルメして「マンガ」のかたちに落とし込んでいくか。いらない要素はギリギリまで削ぎ落として、必要な要素は現実以上に強調して、さまざまなキャラクターや世界全体を表現していく。

一方、僕らに求められるのは、デフォルメされた絵を頼りに、もう一度「現実」にさかのぼっていく力なんです。マンガ家さんの方がなにを削ぎ落として、なにを強調したことによってこの絵に行き着いたのかを考え、ひとつひとつのエッセンスを拾っていく。たとえばマンガでは、キャラクターが着ている服の生地までは描きません。でも、マンガ家さんの頭の中には、必ず生地のイメージがあるはずなんです。僕らはそういうところを拾い集めることによって、単なる実写化ではないアート作品ができあがると信じています。

 

―― まさに作品に対する愛がないとできない仕事ですね。

 

市 そうですね。マンガやアニメに対する愛、それからその作品に対する愛と深い理解抜きにはできないことだと思います。

 

■ 何度も原作を読み返し、作家の意図を探る

 

―― それで今回『テンプリズム』を「ANIMAREAL化」されたわけですが、すごい迫力ですね!

 

市 ありがとうございます。

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テンプリズム×ANIMAREAL 

―― この作品で、いちばん苦労されたところはどこですか?

 

市 時間がかかったという意味では、骨の国の「機械兵」、特に手の部分ですね。

 

-- それは少し意外です。顔や胴体のほうが苦労されるのかと思いました。

 

市 ここがリアル化のむずかしいところで、機械兵のようなキャラクターが出てきたとき、その機械がどのようにして動いているのか、関節から指先の造形まですべてに整合性をつけていく必要があるんです。たとえば、機械兵には指が4本あるけど、どうやってモノを掴んでいるのか、とか。

 

-- なるほど、たしかに。

 

市 それでいろんな角度から描かれた何枚・何十枚もの機械兵をじっと見ていくうちに、手の構造が見えてきました。円盤状になった手のひら・手の甲を中心に、4本の指が360度回転するようにできている。こうすることによって、大きなものを掴んだり、弓矢を射るような細かい動きも可能になっている。この手の構造を読み解く作業が、今回いちばんむずかしかったところだと思います。

 

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「テンプリズム」第1集 2「光の剣士」より

-- すごい! それは絵を見ればわかることなんですか?

 

市 いやいや、このへんは図面を引いて考えます。手の構造はもちろん、機械兵の頭にはこのあたりにネジが埋まっているはずだとか、ここが溶接されているとか。あとは成分表ですね。機械兵は鉄でできてるのか、銅やアルミが使われているのか。ファンタジーとはいえ、その世界における時代考証も必要ですから、中世を思わせるような『テンプリズム』にアルミはないだろうな、とか。それで、鉄や銅だとすれば、傷や錆の具合もわかってきますし。

 

-- そこまで細かく考えられているんですね。

 

市 それが本当の意味でのリアル化だし、僕らはチームとして「作品」に取り組んでいるので、今回のケースでは3DCG担当と図面を引いたり、成分表を考えたりする中で、イメージを共有していく作業が重要になります。

 

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機械兵の3DCG

 

■ ツナシの「服」が見えた瞬間

 

-- 機械兵以外の部分、主人公のツナシに関してはいかがでしたか?

 

市 いちばん気になったのは、服の色と形状でした。マンガは基本的にモノクロの世界ですべての色を表現するので、実写化やアニメ化の際に色のイメージが異なることが多いんですよね。ツナシが機械兵と闘っていたときに着ていた服の色も、白なのか別の色なのか、仮に白だとした場合に、少しクリーム色っぽい白なのか、完全な純白なのかなど、かなり入念に検討しました。

それで「たぶんこの白だろう」と当たりをつけて布地を取り寄せ、今度は型紙をつくって裁断・縫製していくことになります。

 

-- 完全オリジナルの服をつくってしまう。

 

市 そうですね。ツナシが着ている服を忠実に描き起こして、コスチュームデザインの担当を中心に、実際の服をつくっていきます。このとき、何度も読み返していく中で、ツナシの服が特殊な形状をしていることに気づいたんですよ。ベストのような服の下にもう一枚服を着ていて、肩まわりの部分が普通の服とは違う。ほら、この絵を見るとよくわかりますよね?

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「テンプリズム」第1集 3「二年前の幻」より

-- たしかに。

 

市 もし、ここに気づかないまま服をつくってしまったら、曽田先生の意図とは違ったものになります。今回はぎりぎりのタイミングで気づいたので、思いきって袖を切り落としつくり直しました。あとは襟の出し方。あのスタンドカラーのような襟も、ワイヤーを入れないと絶対成立しないんですよ。

 

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完成したツナシの「服」

-- すごい。市さんの頭の中がどうなっているか、見てみたいです。

 

市 じつは今回、僕らの製作過程を追いかけたプロモーションビデオもつくっていますいまちょうど映像担当が編集作業中なのですが、そのビデオは完全に僕らの脳の中を映像化したものです。これまでにも製作現場を追ったメイキングビデオはつくったことがあるのですが、今回はもっと「いかにしてマンガをANIMAREAL化するか」という部分にフォーカスを当てたビデオにする予定です。ちょっとサイバーっぽい雰囲気の、刺激的なものにしたいですね。

 

-- それは楽しみです! それに、このコラボレーションを今回限りで終わらせるのはもったいないですね。

 

市 僕らも『テンプリズム』の第2弾をぜひつくりたいと思っています。これからもっと強い奴がいっぱい出てくるでしょうし、その新キャラクターを今回同様、細部まで分解して表現していきたいですね。