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ANIMAREAL代表 市さん

マンガやアニメと〝リアル〟を組み合わせ、いままでにない新しいアートを生み出している「ANIMAREAL」プロジェクト。今回彼らが取り組んだ作品は、曽田正人が初めて挑むファンタジー『テンプリズム』だった。
後編となる今回は、同じく「ANIMAREAL」代表・市さんに、『テンプリズム』の魅力や「テンプリズム×ANIMAREAL」の見所を聞いた。

■ 思い入れよりも「世界観」を優先する

 

―― では、もう少し作品について聞かせてください。今回の「テンプリズム×ANIMAREAL」という作品は、構図も大きなポイントだと思うのですが、このあたりのディレクションも市さんですか?

 

市 基本的に僕が考えています。前回の話にもつながりますが、リアル化するとなれば、マンガが大好きで、さらにその作品のことが大好きじゃないとつくれないと思うんですよ。だから、根幹になる入口と出口は僕が責任を持って設計するようにしています。途中の部分は各メンバーに任せることがあっても。

ただ、『テンプリズム』は個人的な思い入れも強かったし、最初から最後までコンポジットからグラフィックにかけては、すべて僕がつくりました。

自分で言うのもなんですが、とてもよくできた作品だと思います(笑)。これ、カッコイイですよ。

 

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テンプリズム × ANIMAREAL

―― 個人的に驚いたのは、機械兵の残骸でした。あれだけ想いを込めてつくった機械兵なのに、ツナシの陰になっている部分も多いじゃないですか。もう、単純にもったいなく思えて。

 

市 そうなんです、めちゃくちゃもったいないんです。でも、世界観のほうが大切ですから仕方ないんです。たとえ陰になっていても『テンプリズム』ファンの方が「おお、機械兵だ!」ってわかってくだされば、それで嬉しいですよ。僕らの思い入れより、作品の世界観が優先されないと。

 

―― すばらしいプロ精神ですね。機械兵の手以外で、特にここを見てほしい、というところはありますか。

 

市 やっぱりツナシの顔です。マンガのキャラクターをリアル化するときには、どうしても目の大きさが再現できず、ほかの部分で「その人らしさ」をフォローしないといけません。今回も髪型や眼帯、剣などの細部にはかなりこだわりましたが、「雰囲気、ちゃんと似てますか?」ってファンの方に聞いてみたいですね。

 

■ANIMAREALから見た『テンプリズム』の魅力

 

-- 前回、市さんが『テンプリズム』を相当深く読み込んでいらっしゃることに驚きました。それでぜひ聞きたいのですが、『テンプリズム』と他の作品とを比べたとき、いちばんの違いはどこにあると思われますか?

 

市 まず、明らかに他の作品と違うなと感じたのは、主人公ツナシのキャラクターが、かなり早い段階で変わったところでしょうか。2話まで「少年」だったツナシが、3話では無口で謎めいた「放浪者」になってしまっている。

たとえば3話目から登場するアップンというキャラクターが、最初は年下のツナシに対してナメたような態度をとるんですが、一瞬で立場が逆転して、ちょっとタダモノじゃない空気が漂ってくる。主人公のキャラクターに切り替わりがあるっていうのは、かなり珍しいと思います。

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「テンプリズム」第1集 4「もうひとつの弱点」より

-- 激変しますよね。

 

市 王道ファンタジーの主人公ってキャラクターが似ているんですよ。なにが起こっても明るく、無邪気で、諦めることなく、太陽のように周囲を照らす人。そういう明るさや前向きさが、仲間を惹き付けていく。「ザ・少年マンガ」の主人公ですよね。でも、『テンプリズム』のツナシはそうじゃない。そういうところから曽田先生らしさを感じました。

 

-- たしかに、ツナシには太陽みたいなところ、ないです(笑)。

 

市 わりとアップンにそういう明るさがあったりしますよね。王道に見せて、じつは王道じゃない部分がある。明るいようで暗かったり、暗いようで明るかったり。そういういい意味での裏切りがおもしろい。しかも、その部分ってわりと作品にとってコアとなるところだと思うんです。そこに他のファンタジーとの違いを感じましたね。

 

-- 市さんがこれからの『テンプリズム』に期待していることを教えてください。

 

市 僕としては、どんどん敵や仲間が増えていってほしいですね。曽田先生が描くいろいろなキャラクターが見たいっていうのがあります。

 

 

■ 「めちゃくちゃ真剣に」遊んでいる

-- それでは、市さんの略歴を教えてください。

 

市 元々はグラフィックデザイナーだったんです。最初は音楽レーベルの専属デザイナーで、CDジャケットを手がけていました。CDデザイナーってなんだかかっこいいな、と軽い気持ちではじめて。

ただ、少なくとも当時の僕に求められていた「デザイン」は、要するにクライアントの要求を理解して、忠実に再現していく仕事だったんですね。いかに「自分」を表に出さないかが求められ、ほかの人のコンテンツをよりよく見せることが仕事だというか。

それに、CDジャケットだけをデザインしているのも苦しいんですよ。

 

-- 飽きるということですか?

 

市 可能性が狭められるというか。だって、世のなかの人工物に「デザイン」のなされていないものなんて存在しないんです。ここにあるペンでも、机でも、ペットボトルでも、すべて誰かがデザインしている。デザインできるものは、無限にあるんです。それなのに俺は「自分」を表に出すことなく、ただただCDジャケットだけをデザインしている。フラストレーションは溜まりますよね(笑)。

それで独立していろんなジャンルのデザインを手掛けるようになるのですが、当然生活のこともあるし、クライアントがあっての仕事でもあるので「食べていくための仕事」もこなさなきゃいけない。

 

―― そんなときに、例のハリウッド映画が……。

 

市 そうです、そうです(笑)。僕の周りを見ても、超一流のクリエイターほどフラストレーションが溜まっていたんですよね。「これだったら俺たちのほうが何倍もいいものができる」って。だから最初は、仲間たちと趣味のようにして勝手につくったんですよ。自分が好きなマンガの、好きなキャラクターを、ただ勝手にANIMAREAL化する。どこかからお金をもらうわけでもなく、もちろん作家さんや出版社さんに知らせるでもなく、WEB上で発表して。そこから少しずつ評判が広まって、ある作品と公式版の「ANIMAREAL」ができるようになり、現在に至る感じです。

 

―― その公式の仕事がくる前、つまり趣味のようにつくっていた当時は、年間どれくらいの「ANIMAREAL」を手掛けられていたんですか?

 

市 年間10作品くらいだったと思います。お金はないけど、楽しかったですよ。それまで溜めに溜めてきたフラストレーションが、一気に爆発した感じで。

 

―― もちろん僕らにはわからないご苦労も多いと思いますけど、市さん、めちゃくちゃ楽しそうですね。

 

市 全力で楽しいですよ(笑)。遊びに近いですね。スタッフみんなそうだと思うんですけど、めちゃくちゃ真剣に遊んでる、そんな感じです。

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―― 今後の展開は。
市 もっとメディアのなかで「ANIMAREAL」を表現していきたいですね。安易に実写化されたハリウッド映画を見たときのショックは、いまでも忘れられません。原作者や原作ファンへの侮辱というだけでなく、日本が持つマンガ・カルチャーそのものへの侮辱だと感じました。ハリウッドの人たちに「ここまでやるのがリアル化なのか」と襟を正してもらうというか、最終的にはその現場に関われるくらいのところまでいきたいと思っています。